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発達障害のある子どもの薬物療法。専門医が解説する効果と注意点

発達障害のある子どもたちの支援において、薬物療法は選択肢のひとつとなります。しかし、その効果や安全性について不安を感じる保護者の方も多いかもしれません。本記事では、児童精神科医の専門的な見解をもとに、発達障害のある子どもの薬物療法について、その効果と注意点を詳しく解説します。


動画でも解説しています。

薬物療法の基本的な考え方

児童精神科で使用される薬物の種類は、実は成人の精神科で用いられるものとほぼ同様です。抗うつ剤、抗精神病薬、抗不安薬など、成人にも処方される薬が子どもにも使用されます。しかし、大人と子どもでは薬物療法が開始されるタイミングや治療の目的に重要な違いがあります。


大人の場合は初診で薬物療法が始まることが多く、これは「自分の症状を和らげたい」という意識があるためです。一方、子どもの場合は自らの困りごとを自覚していないことが多く、「周囲が困っている」ために治療が開始されることが少なくありません。


そのため、子どもの治療では、本人や保護者が「自分の困りごとを解決するために薬物療法を活用する」という理解を深めることが非常に重要となります。

医療者や支援者の認識の重要性

「困った子どもは困っている子ども」という考え方は、医療者・支援者の間では少しずつ広がってきていますが、まだ十分に浸透していないのが現状です。特に、教育現場では「困った子どもは病院に行って治療を受けて欲しい。学校には“病気”が治ってから」といった考えが残っている場合があります。

しかし、子どもの困りごとは生活の中に根付いていることがほとんどで、薬物療法はそれを解決する1つの選択肢にすぎません。子どもの生活全体を見据えた包括的なアプローチが必要です。

薬物療法の主なターゲットと使用される薬剤

衝動制御の問題への対応

環境調整や本人の努力だけではコントロールが難しい状況で、以下の薬物が検討されます。

  • 抗精神病薬(リスパダール®、エビリファイ®など)
  • ADHD治療薬(コンサータ®、ストラテラ®、インチュニブ®)

これらの薬物は、イライラや外部からの刺激に対する感受性を和らげ、症状の改善を図ります。重要なのは、治療の目標を「周囲が本人の行動をコントロールする」ことではなく、「本人が自分の衝動をコントロールできるようになること」に置くことです。

不安・抑うつへの対応

不安や抑うつが深刻で、食事や睡眠に影響が出ている場合、または社会とのつながりが失われている場合に、以下の薬物が検討されます。

  • 抗うつ剤(ジェイゾロフト®、レクサプロ®、パキシルなど®)
  • 抗不安薬(リーゼ®、ワイパックス®など)

抗うつ剤は効果が出るまでに2週間ほどかかり、継続的な内服が必要です。一方、抗不安薬は即効性がありますが、対症療法的な側面が強く、症状の強い時期や環境変化時に使用されることが多いです。

薬物療法の開始と継続における重要ポイント

子どもの薬物療法では、行動の早期改善だけを目指すべきではありません。最も重要なのは、子どもが自分の感情や心理面をコントロールするために薬を「利用する」という意識を持つことです。

効果的な治療のためのポイント

本人の意思の尊重
内服を拒否する子どもの多くは、自分の意見が通らなかった経験が多いことに注意が必要です。本人の意思を尊重しながら、生活を支える手段として薬物が助けになることを伝えていきます。


段階的なアプローチ
症状の改善を具体的な行動の変化から評価します。本人が自分自身の行動によって症状が改善したという実感を持てるようにします。


環境との連携
家族や学校との協力が不可欠です。内服にまつわる相談が、子どもが家族や社会とつながっていく第一歩となることも少なくありません。

よくある不安と対応策

副作用への不安

副作用への不安を感じるお子さんや保護者もいます。ただ、体重増加や眠気などが報告されていますが、多くは時間とともに軽減します。また、定期的な経過観察で適切に管理することが重要です。

依存性への懸念

適切な使用であれば依存性の心配は少ないです。むしろ、適切な治療によって社会適応力が向上し、自立的な生活が可能になることが重要なのです。

まとめ

子どもの薬物療法は、「子どもの行動が早く改善するように」という願いだけで進めるべきではありません。本当に重要なのは、子ども自身が自分の感情・心理面をコントロールするために「薬を利用する」という認識を持てるようになることです。


薬物療法は、子ども自身が抱える問題を解決するための手段のひとつとして、適切なタイミングで導入されるべきです。そして、この過程を通じて、子どもが家族や社会とより良くつながっていけるよう支援していくことが重要です。


監修:岡琢哉(児童精神科医。児童精神科の訪問看護ステーション・ナンナル代表)

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