インタビュー
ナンナルが教育部門を新設。看護の質向上と人材育成に取り組んでいます【教育担当・志賀インタビュー】
児童思春期の子どもと家族の心のケアに特化した訪問看護ステーション、ナンナルは、利用者のみなさんによりよいケアを届けるため、このたび新たに教育部門を設立しました。ステーションでは、スタッフ一人ひとりの経験や専門性を尊重しながら、チーム全体で学び合える環境づくりを目指しています。
また、ナンナルでは、独自のケースカンファレンス制度や研究活動の支援など、看護の質を高めるためのさまざまな取り組みも行っています。
今回は、ナンナルならではの教育システムの構築をリードする教育担当の志賀光代さんに、教育部門が立ち上げられた背景や具体的な取り組み、そして今後の展望についてお話を伺いました。
志賀光代
ナンナル本部教育部門 教育関係担当
広島大学教育学部卒業、慶応義塾看護短期大学入学。看護師免許を取得し、大学病院(消化器、血液内科病棟)、糖尿病専門病院などで慢性期、終末期看護に従事。子育て中の離職を経て、2011年復職。東京都重心児等在宅療育支援事業にて重心児・医療的ケア児の在宅移行支援・訪問看護に携わる中で、家族に対する心理支援の重要性を感じ、2021年公認心理師取得。2021年9月ナンナル入職。2024年1月教育部門立ち上げより現職。
ナンナルらしい看護を、より多くの方に届けるために
——まずは志賀さんがナンナルに入職された経緯について教えてください。
看護師免許を取得後、まず成人看護の現場で経験を積みました。その後、子育てのため一度離職。子どもの手が離れて復職を考え始めたときに、東京都福祉局の重症心身障害児等在宅療育支援事業に関わることになりました。重心児・医療的ケア児の在宅移行支援~訪問看護を担当、先天性疾患や中途障害のお子さんとそのご家族のケアに携わりました。
そのなかで気がついたのは、お子さんご本人、そしてご家族に対する心理支援の重要性です。この気づきをきっかけに、私は心理学に興味を持ち、公認心理師の資格を取得しました。学び得た知識をどこで活かせるだろうかと考えていたところ、たまたまご縁があり、ナンナルのメンバーに加わることになったんです。
——ナンナルへの入職後、教育を担当されるようになったきっかけはありますか?
私がナンナルに入職したのは、設立後半年ほどが経過した時期です。当時のナンナルは、看護師3名、作業療法士1名で構成された小さなチームでした。
しかし、今では利用者数・スタッフ数ともに増加し、訪問エリアも徐々に広がりつつあります。規模が大きくなるにつれて、今後いかに看護の質を担保するのかという新たな課題も見えてきました。全国どの事業所でも、ナンナルの理念に基づいた質の高い看護を提供できるような体制を整えるためには、教育システムの確立が必要不可欠でした。
こうした背景から、2024年のはじめに教育体制の強化を目的とした教育部門が新たに設立され、私が教育担当の役割に就くことになりました。
——志賀さんは、具体的にどのような業務に携わっているのでしょうか?
児童思春期の子どもと家族の支援に特化した訪問看護ステーションは、まだ全国的にも珍しい存在です。だからこそ、ナンナルでは、スタッフ全員で知識や経験を共有し合うことを大切にしています。実際、私自身もメンバーから多くのことを学んでいますし、みなさんのことを心から尊敬しています。私の役割には「教育担当」という名前がついているものの、一方的にこちらから何かを教えるということはしていないんです。
ナンナルの教育担当として私が果たすべき役割は、ナンナルらしい看護を提供するための環境整備、そしてスタッフ一人ひとりの学びやスキル向上をサポートをすることだと認識しています。
私たちが新しい看護のかたち、そしてそれを実現するための教育プログラムを一からつくりあげていく。現在は、スタッフのみなさんと学びを深めながら、最適なサポートをともに模索しているところです。
三本の柱で構成された、ナンナルの教育制度
——ナンナルの教育制度の特徴についてお聞かせください。
ナンナルでは、「ケースカンファレンス(ケースの共有)」「現任者研修」「学会活動」を教育の三本柱としています。ケースから生まれた課題や疑問を検討する機会を積極的に設け、スタッフの困り感や必要なスキルをリサーチしながら、月に一度の勉強会で取り上げています。そのほか、教育部門の活動の一環として、有志のメンバーによる看護研究や学会発表に向けた準備のサポートも行っています。これらの活動を通じて、スタッフの専門性向上と、外部との知見共有を目指しています。
有志の取り組みについては、過度な負担にならないよう配慮しながらも、みなさんがそれぞれのやりたいことや得意分野を後押ししています。
——ナンナルに新しく入職したスタッフの方が受けられる研修はありますか?
新しく入職された方に向けては、1ヶ月程度の研修期間を設けています。個々の経験を考慮しながら、柔軟に研修期間やお伝えする内容を調整しつつ、一人ひとりに合わせた研修を実施しているところです。
研修期間中は、現任スタッフへの同行を通じて児童・思春期精神訪問看護の概要や必要なスキルを学ぶOJTの機会もあります。新たに加わったメンバーが安心して訪問看護の業務に移行できるよう、丁寧なサポートを心がけています。
——研修期間が終了した後も、個別に相談ができる機会はあるのでしょうか?
お子さん、ご家族のケアに関して懸念事項や疑問が発生した場合は、ステーション内でケースカンファレンスを開きます。これは、担当者、チームメンバーの少人数の会議です。ケースに対する理解度が異なるメンバーが、さまざまな視点からケースを見つめ直すことで、よりよい支援につなげることを目指しています。
訪問看護では、基本的に1人で家庭を訪問します。とはいえ、その責任を1人で抱え込まなければならない状況では、看護師さんご自身の精神的な負担が大きくなってしまいます。そのため、少しでも気になることや対応に迷うことがあったとき、それをステーションに持ち帰ってみんなで共有し、最適なサポートを一緒に考えることが大切だと考えています。だからこそ、スタッフのみなさんには日頃から「一人で抱えなくて大丈夫」「みんなで相談しよう」とお声がけするようにしています。
最初は試験的に始めた取り組みですが、今では訪問前の時間を使ってみなさんと気軽に話し合う機会が増えています。
そして、これは開所当時から継続しているのですが、全体でのケース会議を月に1回行っています。特に難しいケース状況などについて、多くの視点で検討できるメリットがあります。
また、当社の代表は精神科医です。わからないことや迷うことがあったら、医師のアドバイスを求められる環境なのは、安心感がありますね。
内部リンク:<1周年記念・代表インタビュー>「あいだ」をつなぐ存在を目指して
——いつでも話し合いや相談ができる環境があると安心ですね。
スタッフが安心して働けることは、質の高いケアの提供にもつながります。ケースカンファレンスは、直接的にはスタッフのために実施するものですが、巡り巡って利用者さんのためにもなると考えています。
これまでの経験や知識にとらわれることなく、新しい知識を積極的に吸収しようとする意欲のある方であれば、周囲と連携しながら、きっとナンナルでご活躍いただけると信じています。
一人ひとりの経験や視点を活かせる職場
——児童・思春期精神科や訪問看護の経験がない方でも、ナンナルで働くことはできますか?
学ぶ姿勢と多様性を尊重する環境があるため、さまざまなバックグラウンドを持つ方々が活躍できる職場になっていると思います。ナンナルには多様な経歴と専門分野を持つスタッフが集まっており、それぞれの強みを活かしながらチーム全体でケアの質を高めています。
例えば、小児訪問看護経験がある場合、ご家族の心情を推し量るスキルを持ち合わせているかもしれませんし、精神訪問看護経験がある方は傾聴・対話を通した看護に精通しているかもしれません。一方、児童思春期病棟での経験者は、おうちではなかなか話しづらい子どもたちの本音を聞いてきたという強みがあります。また、場合によっては自傷行為などの緊急性の高い状況に対応する可能性もあることから、小児救急経験者の知見もとても貴重です。その他、自殺対策に携わっていた保健師や児童相談所の虐待関係に従事した経験者など、児童思春期に特化した専門性を持つスタッフや、母子保健の保健師経験者も在籍しています。親子の関係性に触れていく訪問ですので、とても心強い存在です。地域看護の視点からは、成人の訪問看護経験者で地域で暮らす利用者さまとそのご家族への支援に明るいスタッフの存在もとても助かっています。
そして、2名の精神科認定看護師が在籍しています。難しい病理が伴う症例も、広く深い精神科の看護の知識を持つ認定看護師とともに学びながら対応していく環境があります。また、ナンナルには現在3名の作業療法士(OT)が在籍しています。それぞれとても素敵なOTなのですが、共通しているのは「遊びや本人の状況に応じた作業療法的な関わり」です。児童思春期精神訪問看護になくてはならない存在だと思います。
このように、さまざまな専門性が組み合わさることで多角的なケアが可能になるので、私たちはさまざまな専門性や経験のある人を求めています。
私たちが求める看護は「お子さんの夢に向かって伴走する看護」です。これがとても奥深く、繊細で、意義深いと考えています。家庭の中に留まらない、多角的な視点やアプローチも必要となっていきます。ひとりでは成し得ないことも、仲間たちと知恵を出し合ってお子さんにとって最善のケアを探っていくのです。
とても難しいですが、やりがいや楽しさもある分野ですので、お力をお貸しいただけたらと思います。できないことや苦手なことに対して決して引け目を感じる必要はありません。自己効力感を大切にしながら、ご自身のペースで少しずつできることを増やしていただければと思います。
——最後に、ナンナルでのお仕事に関心のある看護師さんに向けて、メッセージをお願いします。
先ほどの繰り返しにはなりますが、ナンナルではさまざまなキャリアや専門性を持つ看護師が活躍しています。
年齢層は20代から60代までと幅広く、ライフステージや生活スタイルも人それぞれ。みなさんが独自の経験や視点を活かしながら、お子さまたちのケアに尽力してくださっています。
子どもたちとの関わりの正解は、1つとは限りません。色々な関わりや一緒に過ごす時間が、子どもたちの社会性を育んでいくのです。そのため「子育て経験がない」「体力に自信がなく、子どもと同じペースで遊べるか不安」という方だとしても大丈夫です。その子らしさを尊重しながら、子どもの「なりたい自分」に向かって伴走してくださる思いがある方であれば大歓迎です。
ナンナルは、ともに学び伸びていく事業所を目指しています。みなさんがそれぞれ大切にしている看護観とスキルを他のメンバーと共有しながら、ぜひ一緒にお子さんとご家族に向き合う力をつけていきましょう。
取材・執筆:西村和音
編集:遠藤光太(parquet)