インタビュー

<1周年記念・代表インタビュー>「あいだ」をつなぐ存在を目指して

訪問看護ステーション「ナンナル」は、みなさまのお力添えにより、2022年4月で開所から1年を迎えることができました。関わってくれたみなさま、ありがとうございます。

1周年を記念して、代表の岡琢哉がインタビューを受けました。ナンナル開所への思いや、1年間の振り返り、今後の展望について語っています。

医師として診察室で感じた限界と、訪問看護の可能性

ーーまずは、ナンナル立ち上げまでのお話を聞かせてください。ナンナル立ち上げには、どんな背景がありましたか?

もともと僕は児童精神科医をやってきました。外来でたくさんのお子さんや保護者の方と接してきましたが、診察室のなかでしか会えないことにモヤモヤを感じていました。

生活にはもっといろんな場面があります。学校も、家のなかも、病院に来る途中もある。それにも関わらず、診察室で見える部分だけを切り取って支援するのはほぼ不可能だなと感じていたんです。

また、お子さん自身が診察室に来るのが難しくなってしまうケースもあり、その場合は保護者だけが訪れることになります。保護者から話を聞いたり、助言したりすること自体にも大きな意味はあるのですが、やはり本人にも直接アプローチしたい。

そうした課題意識があり、診察のなかに精神科の訪問看護を実際に導入し始めました。僕が本人にしばらく会えないとしても、家に訪問して会っている担当の看護師さんにも外来に来てもらったりして訪問看護と連携を取ることで、改善していったケースがありました。そこで訪問看護に手応えを感じていました。

ーー「診察室だけで支援するのはほぼ不可能」といった課題意識は、医師になった当初から持っていたんですか?

僕は最初、正反対のタイプでしたね。まず最初は「何が病気で、何が病気ではないか」「何が障害で、何が障害ではないか」をきちんと明確に線引きするタイプだったんです。だから「これは病気ではない」「障害ではないし病気でもないから医療ではない」といった説明を厳密にしていたり……。

国立精神・神経医療研究センターで研究にも取り組んでいたのですが、研究においては線引きが明確でないと成立しない部分があります。そこで発達障害のことを勉強したので、世の中で曖昧に発達障害の診断が出ていたり、曖昧に支援が始まったりしているのはどうなんだろう、といった問題意識さえあったんですよね。

でも、医師として患者さんとずっと関わっていくと、そうした曖昧な部分もある意味では大事だと感じるようになっていきました。「子どもたちがどうやって健やかに育つか」「家族が誰も悪くないのに壊れてしまうのをいかにして避けるか」が大事ですからね。

児童相談所が介在するケースのお子さんとも、僕はたくさん会ってきました。他の支援者たちから「この家族はすごく大変だから」「母子関係が悪いから」と言われたこともあります。でも、よくよく話を聞いてみると、そのお母さんは自分なりに「子どものことをこうしてあげたい」「子どもの良いところも悪いところも知ってるんだけど、やっぱり悪いところにフォーカスしてしまって、良いところに目を向けられない」と悩んでいるんです。

そういったとき、一緒に良いところも悪いところも見ていく作業をしていくと、親御さんもだんだん変わっていきます。支援者が本人の思いをちゃんと見つけられるかどうかは、話のしかたや一緒に取り組む姿勢が鍵になると感じて、僕の考えも変わっていきました。

子どもたちとその家族に安心の訪問看護ステーションを作る

ーー訪問看護ステーションのナンナルをオープンさせるまでにはどんな経緯がありましたか?

医師として訪問看護と連携し、お子さんにうまくアプローチできた経験があったので、訪問看護には手応えを感じていました。しかし、精神科の訪問看護は、成人の統合失調症などの患者さんがメインになっているところがあり、子どもたちはメインになっていません。だからこそ、事業所の都合で担当者が変わったり、方向性がいきなり変わったりすることがあります。せっかく支援につながっても、またつながりが途絶えてしまうんです。

それならば、僕が経営に関わる訪問看護ステーションがあって、大事にしていることや雰囲気がいつも変わらない、そんなサービスを作りたいと思いました。子どもたちとその家族に特化していて、「この訪問看護ステーションの人が来てくれたら安心」「この事業所のサービスは良い」と。

加えて言うと、「岡先生がやっているから良い」といったあり方は良くないと思っています。よく「あのクリニックにはあの良い先生がいるから行く」ということはあると思いますが、それでは「あの先生」がいなくなってしまうとまた支援が途絶えてしまうんですよね。だから、クリニックなら「あのクリニックはどの先生も良い」と、訪問看護ステーションなら「あの事業所は雰囲気が良い」と思ってもらえるのが健康的だと考えています。

最終的には、いまの物件に出会ったタイミングで開所を決めました。僕は運営会社を立ち上げて代表となり、看護師が所長を務めています。

ーー訪問看護ステーション「ナンナル」は昨年4月に開所しました。開所してみて、感触はどうですか?

「あの事業所は良い」と思ってもらうには、スタッフが大切です。スタート時、メインで活躍してくれているスタッフは3人でした。児童精神科の病棟で働いていた看護師、精神科の訪問で働いていた看護師、精神科の病棟・訪問で働いていた作業療法士です。3人は自分たちの経験が異なっていることをよく理解したうえで、お互いの経験を大事にしてくれています。ほかにいる非常勤の仲間も含め、良いチームになっていると思います。

所長の看護師が、自分の考えを押し付けるのではなく、メンバーを尊重してくれているのは大きいですね。当然、「家族とはこうあるべき」「子どもとはこうだ」といった固定観念がみんな基本的になくて、「この家族が良くなるためにはどうしたらいいだろう」「そもそもしたかったことは何か、何がつらくてこうなっちゃったんだろう」と、みんなで一緒に考えていく姿勢があります。

特定のスタッフが良いというよりは、チームで「ナンナルの人が来てくれる」となってきている感触がありますね。

ただ、もちろん難しいケースの方は特定のスタッフがきちんと関わることも必要です。一方で、ひとりのスタッフが濃密に関わりすぎると、ご本人もしんどくなってしまうことがあります。チームでやっているからこそ、ナンナルに戻ってきたときにはみんなで話し合って、また対応していける。僕も毎週のケース会議に出て、スタッフたちと話し合っています。

遊びを通して、できることを一緒に見つけていく

ーー1年間で、実際の支援はどのように行ってきましたか?

3人のスタッフそれぞれに力を発揮してもらい、お子さんのために自由にやってもらっています。

例えば、お子さんとボードゲームをやることもありますね。ボードゲームを一緒にやると、お子さんの認知特性やコミュニケーションのスタイルがちょっと見えるんです。ルールを必ずきっちりと守る子や、遊びに入ってくるのが難しい子、待つのが苦手な子というように。

大人がただ一緒に遊ぶだけでも、意味はありますよね。さらに、看護師や作業療法士といった医療者がそうした遊びを一緒にやることで、そのお子さんに起こっていることを医学用語に置き換えて記録し、支援の筋道を立てていくことができます。

例えば不登校になっているお子さんは、どこかで自分が社会から外れてしまったような感覚、取り残された感じを抱いていることがあります。でも、そうして遊んでいるうちに「自分は思っていたよりできるな」と思えることもあるし、ご家族のほうもお子さんがスタッフとやり取りしている姿を見たり、スタッフと話したりしているなかで気づくことがあると思います。そういうことは、診察室ではほとんど無理だったんです。

ほかには、スタンプ表を作ることもあります。「次に来るときまでにこれができていたらスタンプを押すよ」「シールを貼るよ」と。内容はもちろん、お子さんに応じて変えていきます。

また、家のなかにある好きなものを持ってきたり、ぬいぐるみで遊んだりすることもあります。

一般的に、支援者は「頑張って」と言って、こちらが「こうなってほしい」と思う姿に向けて詰め込んだりすることがあります。でも、本当に大事なのは、できることを一緒に見つけていく作業だったりするんですね。

夢と現実を大切に

ーーどんなことを大切にして、子どもたちや保護者の方々を支援していますか?

夢と現実の両方を大切にしています。僕たちは、会社のビジョンとミッションに、それぞれ「ヒトが夢見る力を失わずに現実を生きる世界を創造する」「夢を糧に生きる人が育ち、育まれる環境を提供する」と掲げています。

困難や苦労が重なると、「夢見る力」を失ってしまうんですよね。夢ばかり見ていて現実を見ていなければ、生きていけないからです。でも、現実だけだとつまらない。だから、夢と現実の両方が大事なんです。スタッフがご家庭を訪問するときには、夢と現実の両方を見て、お子さんが育っていく環境全体を整えていきます。

ちなみにこのビジョンとミッションは、イギリスの小児科医・精神分析家のドナルド・W・ウィニコットから着想を得ています。彼は『遊ぶことと現実』という本を書いていて、「遊び」や「あいだ」といった概念を重視しています。

ーーナンナルは2年目に入りました。最後に、これまでの振り返りと、今後への思いをお願いします。

僕は医者になったばかりの頃、せっかちになってしまっていました。診察室に来る保護者に対して、「どうやったらこの正しい知識が伝わるんだろう」と考え、詰め込んで伝えていました。短い診察時間のなかで正しいことを詰め込んで言っても、全ては伝わりきらないのが自然ですよね。

でも僕はうまく伝わらないことに焦ってしまっていました。追い詰められている僕が、追い詰められている患者さんや保護者の方に助言しても、うまくいかないわけです。追い詰められた人に必要なのは、ゆとりでした。お互いにゆとりを作るためには、ゆとりのある場所を作らなければいけません。僕にとって、ナンナルはそれを実現した場所なんです。

支援の現場では、効率化とは逆のことをやります。つまり、ボードゲームで遊んだり、好きなことをじっくりと教わったりすることですね。訪問看護は1回につき30分以上の時間を取れるのは大きいと思います。逆に、支援に十分な時間を取るために、日常業務の記録などはシステムやデバイスを最大限に導入して効率化しています。

いま、「あいだ」をつなぐ存在が求められていると思います。例えば、お子さんや保護者には、どこに行っても「様子を見ましょう」と言われてしまい、たらい回しになって困っている人たちがいます。病院はすごく大変だと僕は知っているし、学校の先生も非常に忙しいとわかります。福祉だって大変ですよね。ただ、それぞれの専門分野には強みはあっても、自分たちの組織や業界のことしか知らない人ばかりでは、お子さんや家族がどういう風にたらい回しになってるかが見えないんです。

僕たちは「あいだ」をつないで、困っている人の夢と現実に寄り添える存在でありたい。そのために、いまは仲間を増やしている途中です。仲間を増やせば、結果的にナンナルのサービスがいろんな家庭に届けることができます。

なぜこういう良いチームになったのか、このチームが今までどんなことをやってきたのかを振り返って、新しい仲間たちにも共有していくことで、多くの地域のみなさんにナンナルのサービスを届けていきたいと思います。

取材・文・写真:遠藤光太(parquet)

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