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訪問看護コラム

インタビュー

ナンナルは一般財団法人KIBOWと株式会社金子書房より出資を受け、より多くの子どもと保護者に最適な支援を届けていきます【開業3周年・代表インタビュー】

児童精神科訪問看護ステーションのナンナルを運営する株式会社カケミチプロジェクトは、一般財団法人KIBOWと株式会社金子書房から出資を受けました。

外部リンク:KIBOW社会投資ファンド、日本初の児童精神科訪問看護ステーション「ナンナル」を運営するカケミチプロジェクトに出資 メンタルケアを必要とする子どもとその家族を支援 – 株式会社グロービス

一般財団法人KIBOW様は、「財務的リターンのみに留まらず、社会・環境にポジティブな変化(=インパクト)を生むことを意図する」インパクト投資を実施しています。KIBOW様、そして今回、以前から当社の活動に共鳴してくれていた株式会社金子書房様より、共同で出資を受けています。

出資を受けた背景やインパクトモデルの内容、今後の展望について、代表取締役の岡琢哉がインタビューに答えました。


4年目のナンナルも、「生きづらさ」「育てづらさ」への支援を継続


ーー改めて、ナンナルを立ち上げた理由を教えてください。


私が児童精神科医として、お子さんや保護者の方と診察室のなかだけで接することにモヤモヤを感じていたことでした。生活には、学校も、家のなかも、病院に来る途中も、もっといろんな場面があり、診察室で見える部分だけを切り取って支援するのはほぼ不可能だなと感じていたのです。

そこで、診察のなかに精神科の訪問看護を実際に導入し始めました。私が本人にしばらく会えないとしても、家に訪問して会っている担当の看護師さんにも外来に来てもらったりして訪問看護と連携を取ることで、改善していったケースがありました。そこで訪問看護に手応えを感じた経験から、後にナンナルを立ち上げました。2024年4月で、オープンから3年が経ちました。

ーーナンナルではどのような支援を提供していますか?


例えば、子どもが「学校に行きたくない」と訴えたとします。最初は、子どもの心と体を守るために、保護者も「休んでいいよ」と伝え、休ませることも多いでしょう。しかし、学校に行かない期間が長くなってくると、保護者も不安になってきて、どのように対応していけばいいかわからなくなってしまうことがあります。

そんなときに、ナンナルの訪問看護を利用すれば、子どもとご家族が必要とする支援をともに考え、提案・提供することができます。

訪問看護は、1回30分以上の時間を確保することができ、一般的な病院の診療より長い時間を、一緒に過ごすことができます。住まいを訪問し、子どもやご家族と接し、必要な支援を探っていきます。

訪問する看護師たちがやっていることは、もしかすると、“遊んでいるだけ”のように見えるかもしれません。ただ、その時間のなかで子どもとの信頼関係を築いたり、アセスメントをしたり、タイミングに合った声がけをしたりするには、高い専門性が必要となります。

保護者の方ともコミュニケーションを取り、「生きづらさ」「育てづらさ」に対して適切な支援をしていきます。


出資を受け、インパクトモデルを作成。道筋が明確に

ーー立ち上げから約2年半のタイミングで、出資を受けました。そのきっかけや目的は何でしたか?

不登校、発達障害などでは特に顕著ですが、そのほかのさまざまな障害や状態によって、支援を必要とする子どもとそのご家族が増えています。しかし、まさに私が感じていたモヤモヤなのですが、診察室のなかだけでは難しい現実があります。また、児童精神科医の不足も大きな問題です。

そこで、医療だけでなく、訪問看護の仕組みで子どもとご家族の「生きづらさ」「育てづらさ」を支えていく必要があります。しかし児童精神科の訪問看護ステーションは当社が日本初であり、まだまだ数が足りていません。

そして、福祉業界で往々にして起こることですが、今後は児童精神科の訪問看護が過剰請求や利益追求優先の「助成金ビジネス」のようになってしまうことを避ける必要も感じています。営利のみを目的として、適切な支援ができない事業者がこの業界に蔓延してしまうのは、避けなければなりません。

児童精神科の訪問看護を、ただ広げればいいわけではないのです。私たちが、理念を持ち、専門性の高いスタッフとともに広げていくことで、多くの子どもたちに最適な支援を届けることが必要だと感じています。そのためには、やはり資本が必要でした。

出資を受けるからには利益追求はもちろん必要ですが、そうではない部分でも私たちの想いを理解してくれるパートナーを求めていました。そこでご縁があったのがKIBOW様であり、金子書房様でした。

ーー実際に投資を受ける過程で、どのような取り組みをされましたか?

まず、KIBOW様の担当者と一緒に、インパクトモデルを作れたことが大きかったです。

立ち上げ当初は私たちが漠然と思い描いたことを、KIBOW様の担当者が非常にロジカルに受け止めてくれて、このインパクトモデルを一緒に作ることができました。目指すところが明確になりましたね。

一般財団法人KIBOW「IMPACTREPORT2023」より引用


ーーインパクトモデルについて解説をお願いします。

まず事業目標を「メンタルケアを必要とする子ども10万人に最適な支援を提供する」としています。

目標をもとに、具体的には「インプット」「活動」「アウトプット」「初期アウトカム」「中期アウトカム」「長期アウトカム」に分けて整理しています。

ナンナルにとって重要なポイントは、数値化して評価できることとそうでないことがあり、数値で評価できないことも大切にしているところです。

数値化して評価できるのは、例えば「利用者数が増えること」です。しかし、私たちはこれだけを目標にしているわけではありません。

数値化が難しいところとしては、例えば先にお話しした通り、「訪問看護の時間で、ただ子どもと遊んでいるだけではなく何をやっているのか」を言語化していくこと。そうした点の活動・アウトプットとしては、看護師育成のための教材制作、研究・論文の発表なども重視しています。

児童精神科の訪問看護ステーションは、まだ社会に馴染みの薄い事業です。この事業自体を理解してもらうための普及活動も重要になっていきます。

ーーそれらが、長期アウトカムにもつながっていくんですね。

「医療費最適化・税収増加」「持続可能な社会保障制度」は、社会へ長期的に与えるインパクトです。入院していた子どもたちが入院治療をしなくて済むこと、犯罪に走らないように支援すること、そして自殺をしないようにすることなどは、結果的に医療費や税収、社会保障へのインパクトも生むことができると考えています。

ただ、やはり最も大切にしているのは、子どもたちが「夢を糧に生きる」ことができるようになることです。

メンタルヘルスの問題があると、選択肢が狭まってしまう現状があると私は認識しています。そうではなくて、メンタルヘルスの問題があったとしても、適切な支援を受け、彼ら・彼女ら自身の選択肢を広がることを目指したい。

これは創業時から、ビジョンの「ヒトが夢見る力を失わずに現実を生きる世界を創造する」、ミッションの「夢を糧に生きる人が育ち、育まれる環境を提供する」に反映しています。


看護師の教育専門ポジションを新たに設置


ーー出資を受け、インパクトモデルを策定したことで、現時点ではどのような効果が現れていますか?

最も大きな効果は、仲間を増やすことができた点ですね。ナンナルでは看護師の採用と教育が非常に重要です。当社だけではその費用を賄いきれない部分があったので、出資を受けたことで、当社が望む採用を行うことができるようになってきました。採用は、今後も積極的に進めていきます。

また、看護師の教育専門のスタッフを雇用することができた点も大きかったです。もとから非常勤(パートタイム)で働いてくれていたスタッフだったのですが、諸事情により現場を離れ、スタッフへの看護に関する助言を担当しており、看護の質の維持や向上の必要性を共有していました。

そこで、出資を受けたタイミングで、看護師の教育専門スタッフのポジションに入ってもらいました。

インパクトモデルの中でも、看護師育成は活動のひとつとして重視しています。今は、ナンナルの中で研究チームも立ち上げて、そのスタッフを中心に研究報告を進めています。

そうしたことに前向きなスタッフがすごく多いので、とてもありがたいと思っています。

ーー看護師の育成について、手応えはいかがですか?

それぞれのスタッフができることを増やしていってくれているので、手応えを感じます。

まずどのスタッフも入社して最初の1ヶ月間は、メンターがつき、他のスタッフに同行をして経験を積みます。

ただ、ナンナルに来る人は経歴がバラバラで、キャリアが長い人から浅い人まで両方いて、積んできた経験も多岐に渡っているため、一律の育成方法では上手くいきません。キャリアや資質に応じて、その人に合わせた教育プロセスを構築していかなければならず、その点は、教育専門のスタッフを配置できたことで、円滑になってきています。現在は教育専門のスタッフと各事業所の所長と話し合いながら、教育のプロセスを考え、研究しています。

ーー最後に、これからの展望を教えてください。

これからもナンナルの事業所を拡大し、教育専門のスタッフや各所長とともに看護師を育成して、最適な支援を届けていきたいと思っています。

また、出資を受けて良かったと感じる点なのですが、同じ投資ファンドから出資を受けている仲間とのつながりも生まれてきています。私たちは、ナンナルのなかだけで閉じるつもりはありません。想いを共有できる仲間と出会えれば、積極的に協力し、「夢を糧に生きる」ことができる人を増やしていきたいと考えています。


取材・文・写真:遠藤光太(parquet)

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